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電王戦 0.1 場外乱闘編 自戦記

みなさま聖夜はいかがお過ごしだったでしょうか、原告の伊藤です。お知らせをはさみましたが、引き続き記事を書いていきます。

北島理事のメールから始まった一連のやりとりを、私は今振り返って「電王戦 0.1 場外乱闘編」と呼んでいます。ちなみに場外乱闘編、この後 0.2, 1.1, 2.3 と続きます。2.3 はもちろん今の裁判。

あのメールを読んで、私の方として読みとれたことは2点ありました。

ひとつめは、ボンクラーズは米長さんよりはっきり強いらしい、ということ。今でこそ「名人を越えた」などと言っていますが、電王戦の話が来た2011年9月当時は、コンピュータ将棋の棋力がどの程度まで来たのかはっきりつかめていませんでした。2008年にアマの清水上さんや加藤さんに勝ち、2010年に清水女流に勝ったことで、棋士レーティングから考えて、アマ(1300台)や女流(1200台)よりは強いだろうとは推測していました。

2011年5月にponanzaが将棋倶楽部24に参戦し、一時は最高レーティングを更新したものの、最後の方では連敗して最終的に24レーティングで3100程度でした。3100がプロでどのくらいなのか、はっきりとはわからないながら私の推測としては、24の最高レーティングの人間はプロ中堅くらいだろう(羽生さんクラスは24なんてやってないだろう)、ponanzaはそれよりはちょっと下らしい、ということで、(男性)プロ下位くらいではないかな、というものでした。なおボンクラーズとponanzaは、コンピュータ将棋対局サーバのfloodgateの対戦成績では大体互角だったので、棋力も同じくらいだろう、とこのころは思っていました(これは後で間違いとわかるのですが)。

一方、米長さんがその時点でどのくらいの強さなのかもわかっていませんでした。引退してかなり経つけど、仮にも元名人だから、どうだろう、プロ下位くらいはあるのかなぁ、くらいに思っていました。そうするとどっちもプロ下位クラスで同じ程度、ということになるので、勝敗としてはまったく予想つかないな、という感じでした。

マシンを貸し出してしばらくしてから、米長さんがいきなり10連敗したらしいという話が風の便りに聞こえてきました。ですが最初にこれを聞いたときは半信半疑でした。上記のとおり互角くらいかなと思っていたので、そんなはずないんじゃないか、というのがひとつ。もうひとつは、三味線なんじゃないの?と。コンピュータは油断するわけではありませんが、対局当日まで開発は続けますとは言ってたので、私が開発の手を緩めることを期待してガセ情報を流してるのでは?なんて可能性も捨てきれませんでした。

そこへこのメールです。文面から見て、相当本気でコンピュータを弱くしようとしているな、と感じました。てことは、やっぱり10連敗はほんとなんだな、米長さんよりはかなり上みたいだな、とこのとき思うようになりました。

読みとれたことの2点めは、むこうにとっては興行よりも、勝つことの方が大切なんだな、ということ。コンピュータを弱くしたのでは、興行的にはやはり興ざめでしょう。むこうもそれに気づいてないとは思えません。それにも関わらずこう言ってきたということは、興行的成功をある程度犠牲にしても、人間側が勝ちやすいようにしたい、という考えだと推測できます。もちろん、これ自体は別に悪いこととは言えません。棋士なんて商売は、勝負へのこだわりがないとやっていけないでしょうから。ただ、居酒屋でああいう話を聞いた後の私としては、
「あんたこないだ興行が大切やって言うてたやん!」
と内心ツッコんではいました。

さて私の方はどうかと言うと、実は「まあ別にそれでもいっか」と考えていました。もちろん負けるよりは勝つ方がいいですが、多少気分がいい程度の話で、別に勝ったら対局料増えるというわけでもないので、勝ったからといって実益ないと言えばない、負けたら別に困るかというと(ちょっとはあるけど)そんなに困らないのですよ。私の興味としては「コンピュータ将棋の棋力がどこまで来たか」を知りたいというのがメインだったので、上記の話で米長さんは越えたらしいということがはっきりしたら、あとは本番の対局結果にこだわる理由はあまりありませんでした。

もう一点は、F社が支援するにあたって、やはり「なんとか勝ってほしい」みたいなプレッシャーがあったわけです。これに対して、マシン制限を入れれば「いやー負けちゃいましたね。でもまあ本気モードじゃなかったですからね。もちろん最強構成のクラスタなら楽勝でしたよ、あっはっはっ」などと言ってればいいので、責任が軽くなる、というのもありました。いやまあなかば冗談ですけど。

ですがそうは言っても、実際にマシン制限を入れるといろいろと問題だろうなあ、というのは容易に想像がつきましたので、実際問題制限なんてできないだろうと思っていました。その問題点を織り込んで、北島理事メールの翌日、以下の返事を送りました。また全文を載せます。

-------- 2011/10/21 私->連盟のメール ここから --------
北島先生

伊藤@ボンクラーズ作者です。お世話になっております。

> しかし、対戦相手を「ボンクラーズ」にお願いしましたのはコン
> ピュータ選手権で優勝した実績によるもので、その条件のもとで
> 現在最強ソフトがプロ棋士と対戦することが望ましいと、ルール
> 決定委員会で改めて協議して結論付けられました。
> 従いまして消費電力量で制限を掛けるという事ではなく、選手権
> で申告されました「プロセッサ(CPU)が3つ、PC3台」の
> 条件でセッティングとチューニングをお願いしたいと考えており
> ます。

私の意見としては、コンピュータ側は持てる最大の力を発揮するような
構成の方がイベント的に盛り上がるので望ましい、という考えです。
ただ、他の何らかの理由でCPU個数を制限したい、ということで
あれば、*私としては*強く反対はしません。

ただ、気になる点がいくつかあります。

1)今こちらが想定しているコンピュータは、マザーボード上に
CPUが2個載っていて、マザーボード単位で増設していくタイプ
のものです。したがって、CPU個数は2、4、6、…というふうに
2個ずつ増えていくので、3個と言われるとちょっと難しい面が
あります。もし個数制限するなら、4個にしていただけないでしょうか。

2)「*私としては*強く反対はしない」と書きましたが、私の一存で
決められる話ではありません。まず、米長先生や他の棋士の皆さんは
どうお考えなのでしょう?本当に皆さん、CPU個数制限してよいと
お考えなのでしょうか?私が思うに、棋士の皆さんにとって都合が
悪いのではないかと思うのですが。

ご存知と思いますが、コンピュータ将棋ではCPU個数を増やすほど
強くなります。CPU個数を制限するということは、意図的にコンピュータ
を弱くする、ということになります。いわば、コンピュータが米長先生を
相手に駒落ち将棋や目隠し将棋を指すようなものです。

電王戦のルールや条件は、公開すべきものと思っています。期待して
くださっているファンの皆様に対して説明責任があるからです。
「将棋連盟側から、コンピュータに対して駒を落とすよう依頼した」
などということが世間に知れたら、どう思われるでしょう?先生や棋士の
皆さんの方が困るのではないでしょうか?私も一将棋ファンとして、
棋士の方々の評判が傷つくことを大変懸念しています。

ご覧になってるかどうかわかりませんが、既に現在、掲示板等では
いろいろ批判がとびかっています。曰く、「プロはソフトから逃げ回って
いる」、云々。このうえCPU制限などという話が出ると、更に
その批判が勢いを増すのは明らかでしょう。そうなっては棋士さん達
自身が困るのではないかと思いますが。(まあ私自身はあまり困らない
といえば困らないですけど。)

委員会の決定というのがこの点をどこまで考慮したものか私は知りま
せんが、上記の私の懸念と、「このことを知ったら、世間がどう見るか」
を念頭に置いたうえで、再度委員会で議論していただけませんか?その
うえでやはりCPU制限をしたい、ということであれば、次のステップに
進みたいと思います。

3)棋士さん達の他にも配慮すべき相手がいます。ファンとスポンサーです。
彼らはどう思うか、何を期待するか、と考えると、当然ながらより強い、
ハイレベルの戦いを期待するはずです。彼らからすれば、CPU制限は
望ましいものではないでしょう。イベントとして「盛り上がらない」こと
になってしまいますから。将棋連盟さんとしてどうしてもCPU制限を
したいということであれば、少なくとも彼らの了承は得る必要があると
考えます。

といってもファンの了承を得るというのは誰に何をすればいいのかわから
ないですが、少なくともスポンサーの了承を得ることは必須です。
私(並びに、多くのコンピュータ将棋開発者)にとっても、人間対コン
ピュータの対戦にお金を出してくれるスポンサーは大変貴重な、ありがたい
存在です。今回の電王戦だけでなく、今後の対戦もあります。それを考えると、
今ここでスポンサーの機嫌をそこねるような行為は絶対にできません。

もし上記2)で、連盟側の委員会がやはりCPU制限を希望されるので
あれば、私の方からスポンサーに確認します。先日会見に出てらした
小林社長と川上会長に、CPU制限しても(意図的に弱くしても)よいか
聞いてみます。それでOKが出たら、私としても異存ありません。

ファンの意見を聞いてない点がまだひっかかりますが、中央公論さんも
ドワンゴさんもメディアの会社ですので、彼らは恐らくファン(≒読者、
視聴者)の立場を代弁するように考えをめぐらせるでしょう。ですので
彼らがOKならばファンもOKだろう、と思うことにします。

ということで、「以上3点がクリアされればCPU制限OK」が
私のスタンスです。委員会さんの方としては、まずは上記1)、2)を
ご検討ください。よろしくお願い致します。
-------- 2011/10/21 私->連盟のメール ここまで --------

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電王戦記録」カテゴリの記事

コメント

伊藤さん。今日の話は、めちゃくちゃ面白かった。
どんどん書いてください。

第1回電王戦のコンピューター側の出場者が伊藤さんで良かったと思いました。
他の人だと、状況を整理して、このように理路整然と交渉できたとは限りませんから。伊藤さんでないと、”言うべきことは言う”はできなかったかもしれませんね。
(私も、あから対清水女流があったころから、なぜプロ(男性)は逃げ回って対戦しないのかと思っていました。)
それに、第1回電王戦でコンピューターを弱くして勝っておいて、「ほら、コンピューターは引退棋士にも勝てない、まだまだだ」という顔をされたら、あの第2回電王戦もなかったでしょうね。

これは貴重なお話ですね

実に興味深い展開になってきました。

伊藤さん、ガチで怒ってますね。

「連盟も少しは反省しろ」と。

そういうことですね。


「将棋は連盟の独占出来るものではありませんよ。」と。

あ、これは私の感想です。


この連載、期待を超えてきました。

すごいものですね。

一つ質問よろしいですか?

電王戦のスペックの話と今回の裁判の話は直接は関係ないと思われますが、何故公開されるのでしょうか?

14時19分さん
連載の趣旨については第1回に書いてますのでそちらをご参照ください。

質問です。
北島理事からのメールを読む限りでは、コンピュータを弱くする要望は「ルール決定委員会」の意向であり、「米長邦雄」の意向ではないと考えていいでしょうか。もし、お答えいただけるならお願いします。

以下、感想です。
「コンピュータを弱くする」というやり方は、米長先生の考え方や生き方とちょっと違うなと感じました。もし、米長会長がお元気であれば、電王戦の第2回から第3回への対局条件の変化や裁判などもなかったように思っています。誰の意向によるかが重要に思いました。

ふと思い出したのですが、将棋ウォーズのニコニコ生放送にゲスト出演された時だったかと思いますが、その時に気になる発言をされていました。
山本氏から「将棋プログラムをやめて次は何をするんですか?」との質問に対し、

・今は言えない。
・(囲碁などの)ゲームではない。
・時期が来たら発表する。
・皆さんに喜んでもらえると思っている。

のように答えていらしたと記憶しています。
今回の連載(および訴訟も?)を指しての上記の発言だったんでしょうか?
当時は”コンピュータを使った将棋や囲碁のようなゲームではない分野への新たな挑戦”ぐらいに単純に考えていました。
まぁ、確かに連載は楽しんでいますが…。

メールのやり取りを読んでるだけで
ドキドキします
ブログだけでなく一冊の本になったら
もっと面白くなりそうです

YSさん
私もメールの文面以上の情報を持っていないのではっきりとはわかりません。ただ判断材料としては、「いったん委員会でOKとなったのに、見直しが入った」というところでしょうね。なぜ見直すことになったのか?がポイントだと思います。

大阪のおっさんさん
連載/訴訟のことではないです。そちらはそちらでやっております。

伊藤さん伊藤さん

ボンクラーズはCSA21で「駒落ち将棋や目隠し将棋」状態で優勝したということなのでしょうか?
1000W制限でそうなってしまいましたが、本当は持てる最大の力を発揮するような構成にしたかったですよね

もう1つ質問です
コンピュータ側は持てる最大の力を発揮するような構成にしたいとのことですが、
何故予定していた4000Wサーバーではなく最大2800Wで妥協してしまったのでしょうか?
将棋会館以外の電力が十分に取れるところで対戦したほうが最高のボンクラーズが見れたはずですよね
将棋会館でやるにしても発電機を持ち込むなりして4000Wサーバーのボンクラーズが見たかったです

伊藤様

回答ありがとうございます。
連載も楽しんでいますが、そちらの方も楽しみにしています。
裁判の件も普通の人間にはいかほどの肉体的・精神的負担なのか想像できませんが、労力に見合った結果が得られることを願っております。

>裁判の件も普通の人間にはいかほどの肉体的・精神的負担なのか想像できませんが

それなりに労力はかけていますが、そうむちゃくちゃ苦労したというほどではないです。半年かかってますが、弁護士経由のやりとりでレスポンスが遅くて待ち時間が長いのが主因で、半年ずっとかかりっきりだったわけではありません。(ソフト開発よりはずっと楽w)

裁判およびその経緯・準備もいずれブログに書こうと思ってますが、これも差し障りあるといけないので、裁判終わってからになるでしょう。

回答ありがとうございました。
「なぜ」という問題設定が、いろんなことを説明し、この連載の意図にもそうものなのかなと思いました。

伊藤さんのブログ楽しく読ませて頂いてます。
会長は興行として成功させるために、.「ガチにみせかけた長期間の対決」というブックを作ってプロレスをしたかったんでしょうね。
興行が成功するための方法は、それぞれ考え方もあり正解が一つではないので難しい問題ですね。

コンピュータの本気って、国家予算規模の金を使った
最強構成ってことなのだろうか?

それなら、電王戦で800台使ったGPSも
「駒落ち」で戦ったということになると思うが。

規模に現実的な制限がないと、なんか違う気がする。

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