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もう何も恐くない

2011/10/6 に原宿ニコニコ本社で記者会見を行いました。この時のことは以前にブログに少し書いてます。

この時以前の私は、今ブログをお読みの多くの方と同じく、全く普通のサラリーマンでして、新聞やTVに出たことは当然一度もなかった、というかそもそもそ ういうのに出るなんて一生ないのが当たり前、考えすらしなかったわけです。それが突然、9/12に「記者会見に出てください」と言われ、いやもう青天のへ きれきというか何というか。

コンピュータ将棋選手権で優勝したときは多少は騒がれましたが、そもそもコンピュータ将棋なんて見てる時点で大体その道のオタクで、騒がれたといってもまあ内輪の世界なわけです。それがいきなりニコ生で全国放送、読売・朝日等の記者も来る、というのでめまいがしてました。マスコミデビューというと、喜ぶ人もいるかもしれませんが、私もまあ喜ばしいと思う部分も全くなかったわけではないですが、やはりそれ以上に、自分は表舞台に立つよりも隅っこでこそこそ好きなことをやってる方が性に合ってるということはよくわかっていたので、えらいことになったなぁという気持ちの方がはるかに強かったです。

まあ幸いというか、私はマーケティングの仕事では客先に行ってプレゼンとかはよくやってたので、緊張してしゃべれなくなるような心配はあまりしてませんでしたが。開発のエンジニアだと外にまったく出ない、客と話すことはまったくない、という仕事も少なくないので、そうだったら危なかったかも。

ちなみに会見の話を聞いたときのツイート:

 9/12 打ち合わせ。どんどん進んでるけどいいのかいな。か○○ん?はァ?特別な場所まで見せてもらう。これはさすがに緊張しまくり。あと、えーと、みつくろうんですか…

○○はもちろん「いけ」。こんときたしか千駄ヶ谷の将棋会館に行って、会場になる特別対局室を見せてもらってました。マシンのレイアウトやケーブル類の取り回しのメドをつけるため必要なので見学させてほしいとお願いしたのでした。将棋会館は、1、2階は一般人でも入れるんですが、3階以上は関係者しか入れない「聖域」です。もちろん私も入るの初めてで、一将棋ファンとしては感無量でした。私の記憶が正しければ、たしか竜王戦の挑決で丸山対久保戦をやってるのを、私に会場見せるために1分だけ部屋の入り口のとこでのぞかせてもらいました。目の前で丸山さん久保さんが盤に向かって考えてるわけですよ。こんなの生で見るのも当然初めてで、いやこれは緊張しました。

記者会見後は、具体的な実務面を連盟と相談しはじめました。この頃連盟側では、電王戦のための「委員会」というのを作りまして、谷川専務理事、北島理事(共に当時)、あと連盟職員のRさんという方の3名がその委員でした。のちにコンピュータ将棋協会の小谷副会長も委員に加わります。

委員会といっても、細かい実務はほぼRさんが担当していました。この方は実務面でとても丁寧に対応してくださる良い人で、この後も第2回電王戦、タッグマッチでも担当を続けていまして、電王戦の裏方としてなくてはならない存在です。私もRさんには大変お世話になっており、とても感謝しています。まあとにかく、私が連盟と話すときは主にRさんとやりとりする、必要に応じてRさんが谷川・北島両理事や対局者の米長会長(当時)にきく、という感じで進めていました。

人間どうしの対局については連盟が細かい規定をいろいろ作っているわけですが、コンピュータの対局に関する規定なんて当然ない。それで、いろんなケースをひとつひとつ想定しては対処を考えていました。停電したら、誰かがコードに足ひっかけたら、コンピュータがバグで止まったら、コンピュータの時計と記録係の時計が食い違ったら、昼休みはコンピュータはどうしてる、等々。

清水-あから戦や渡辺-ボナンザ戦でそういうの決めてあったんじゃないのかと思ってたんですが、どちらの時もあまり細かく決めてなかったことが判明しました。「疑義が生じたときは立会人が協議する」とかそんな程度だったらしい。私はこういうとこけっこう細かい方で、さすがにそれじゃあまずいだろうと思い、細かいところまで後々もめないように決めておこうと思いました。

その結果、コンピュータならではの問題についてはかなり練ったルールを作れたと思うのですが、実は別にコンピュータに限らない、人間どうしでも当然決めておくべき千日手のケースのことを考え忘れてました。それで対米長戦本番では、午前中に千日手含みの展開になり、やべぇ千日手のこと決めてなかったよどうしよう、と焦るハメになりました。まあ結果的にならずに済んだのですが。

このときの反省を元に、第2回では事前に千日手、持将棋のルールも十分話し合い、それで持将棋になっても焦らずに済んだ、というのはだいぶ後の話になります。

そうやって詰めていった件のひとつに、消費電力の話があります。会場の将棋会館は築30年だか40年だかのかなり古い建物だそうで、電力が十分ないかも、という話が出ていました。コンピュータ将棋選手権のルールでは、「各チームの消費電力は、基本1000Wまで。ただしそれ以上必要な場合は応相談」というものです。2011年5月の選手権でのボンクラーズは、普通のPCを3台つなげた構成で、消費電力は全部で500W程度でした。それで最初、連盟は「選手権と同じく、1000W制限ではどうか」と言ってきました。

この頃私の方は、F社が協力してくれることになり、サーバ(大型コンピュータ)を貸してくれる、という方向で話が進んでいました。この経緯についても差し障りない範囲で後で書きます。で、予定していたサーバは、最大4000W消費するものでした。そもそも選手権で1000Wという制限は、大会で20台超が一斉に動くため、会場の電力容量制限から来たものです。なので、電王戦で1台しか動かないなら1000Wにする理由ありませんよね、将棋会館の電力容量を調べて、何Wまで使えるのか教えてもらえませんか、とRさんに頼みました。

すると、ビルの電力容量なんて簡単にはわからないのでしょう、業者に依頼して配電関連の図面を見てもらったりしたそうで、結論として2800WまでOKと委員会で決まった、という返事が10/17にRさんから来ました。

これを受けてF社側でマシン構成を検討しました。想定していたのはBX400というブレードサーバと言われるタイプのマシンです。ブレードサーバというのは、ブレードと呼ばれる基板(見かけはまな板っぽい感じ)が最高級のPC2台ぶんに相当する機能を持っていて、このブレードを何枚か挿せる、枚数によって性能/価格/電力を変えられる、というものです。最大8枚搭載できるのですが、ボンクラーズを実際に動かして電力を測定し、2800Wならブレード6枚まで可能、ということがわかり、本番はブレード6枚構成で行こう、と決定しました。

これで無事決まった…と思ったのですが、10/20、連盟から想定外の一着が飛び出します。これに不意をつかれ、私は長考に沈むことになります。10/20の連盟の北島理事からのメール全文を下に載せます。さて、このメールの意図は何なんでしょう?みなさんが私の立場だったら、これに対してどう返すでしょうか?よかったらちょっと考えてみてください。

今回はここまで。タイトルが示す通り、ここから徐々に鬱展開が入ってきます。EDは今回からKal*finaで。

-------- 2011/10/20 連盟からのメール ここから --------
「ボンクラーズ」対局ルールについて

伊藤英紀様

1月14日の「米長永世棋聖vsボンクラーズ」対戦に関しましては、
色々とお世話になります。

電力消費量に関しましは、10月17日に「2800Wまで使用許可」の
決定をお伝えしましてご了承をして頂きました。

しかし、対戦相手を「ボンクラーズ」にお願いしましたのはコン
ピュータ選手権で優勝した実績によるもので、その条件のもとで
現在最強ソフトがプロ棋士と対戦することが望ましいと、ルール
決定委員会で改めて協議して結論付けられました。

従いまして消費電力量で制限を掛けるという事ではなく、選手権
で申告されました「プロセッサ(CPU)が3つ、PC3台」の
条件でセッティングとチューニングをお願いしたいと考えており
ます。

伊藤さんの方でこの結論に対し、質問や不明な点がありましたら
再度委員会で協議しまして最終決定の結論を下し、ルールとして
対戦相手の米長永世棋聖に伝えたいと思います。同時に米長永世
棋聖に対してもこの文章を送り、同意を得られるように致します。

対局者双方が大変な重圧を感じておられる中、お気持ちを乱すよ
うな、ご連絡となってしまい申し訳なく思っております。ファンの
注目を集める歴史的な対局を成功させることを第一と考え、何卒
ご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

ルール決定委員会委員長兼立会人・谷川浩司、副委員長・北島忠雄
-------- 2011/10/20 連盟からのメール ここまで --------

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電王戦記録」カテゴリの記事

コメント

むーん、早く続きを尾みたいですね。お忙しいでしょうが、1週間後といわず可能な限り早くお願いします。

では、では。

う~ん
裏読みするとコムが
強すぎるから弱くしてくれ
って事ですかね。

対戦結果を知ってるから「別に弱くしていいよ」的な返事書くかもしれません。

当時の伊藤さんの立場なら嫌でしょうね。
せっかくなら10台でやりたいって
思うでしょう。F社が協力してくれる決まったなら。


伊藤さんは結局応じられなかったんですよね。賢明な判断でしたね。最強のコンピュータと対戦するという趣旨から外れてしまいますよね。

来年の第3回電王戦も最強ではなくなりましたが、あれはまた別の視点、つまり単一の高性能ハードという乗り物をうまく乗りこなせる最強コンピュータとの戦いという新しい概念が必要ですね。 まあ後数年もすればいまのGPS級のクラスタ性能を有する単一ハードが登場して、ハード制限うんぬんが議論されなくなっていることを期待しますが。

なるほど、そんなメールが来ていたのですか。
2つ前の記事では、連盟寄りの事を書きましたが、この件についてはちょっと連盟が筋違いな気もしますね。指示された消費電力の範囲内でやろうとしていたところで、いきなりそのような条件を突きつけられたら。
そもそも、コンピュータ将棋選手権とまったく同じ状況なんて作れやしないですし、そういうことならはじめから言うべきだと私は思ってしまいました。

第三回電王戦の共通ハードで行うというのは、純粋なソフトの実力がはかれるのでいいと思います。

ハードの能力制限を設けるのは当然だと思うし、コンピューター将棋選手権当時のセッティングとの対決で(初めからそう言っていればですが)問題はないと思います。
連盟幹部の知識が無さ過ぎて、ハード環境が結果を大きく左右する事を準備を進めていくうちに理解したという事ではないかと推察します。
負けたくないからこう言ってきたと取られても仕方が無いですがね。対戦相手側からの要求ですから。

イーブンな立場で対戦要件を設定するマッチコミッショナー的な存在が現状いないのが残念ですね。

ただ私はイーブンな条件となると、コンピューターのハードにかなり制限を設けないとできないのではないかと考えています。例えば人間が持ち時間の間に消費するカロリーと同等の消費電力量に制限するとか。
やりすぎですかね?

まあ、コンピューターとパソコンの違いが判らない将棋連盟が、
ルール決めるのが間違ってる気もします(笑)

本当ならば、最初から担当してる電通が、第三者機関を作って、
ルールを決定しておくべきでしたが、担当者にそこまで余裕無かったかな。

そもそも、将棋の強さって、読みの深さ×読みの速度でしょ
速度の部分でどんどん金をつぎこんだら、人間もドーピングして
よいみたいな話になると思う。
あくまで常識的な市販品レベルの速度の中でどこまで読みを深められる
かと競うべきだと思う。
CPだけ制限なくチューンナップできるのはおかしい
それなら人間は考慮時間無制限にするとかしてもよいことになる

将棋指しは、体力を鍛えているわけではないのである

コンピューター将棋がどこまで強くなったのかが主題ですから、最高の条件でやってほしいと思うのが当然のところ、弱くしてほしいと強要してきたわけですから、あきれた話です。
将棋連盟とは、どこまで腰抜けで卑劣な組織なのでしょう。

仮に電王戦に羽生や森内が出てきたとしても、伊藤さんや他の開発者は「それは困る。勝てそうにない。せめてB2かC1の棋士にしてくれ」などとは決して言わないでしょう。
一般人の開発者が堂々としていて、勝負師であるべき将棋指したちがおびえて逃げ回っている。さかさまですね。

プロ棋士がコンピューター将棋にやすやすと勝てていたころ、将棋連盟もその信者たちも「ハードを制限すべきだ」とは決して言いませんでした。「ソフトを事前に貸し出せ」とも言いませんでした。
「コンピューターは疲れないからずるい」
「コンピューターは恐怖心がないからずるい」
「コンピューターは間違えないからずるい」

勝てないようになってから、彼らはずいぶんおしゃべりになっています。

提訴の議題から外れる上にソフト開発者という
イレギュラーな人からの意見なのでみなさんには申し訳ないですが、

人間は生き物である以上、感情があるから
その場の状況に左右されやすいけど、
コンピュータは自我がないから自分でルールを決められないっていう
弱点がある。

つまり、人間の決めたルールっていう制約こそ
一番コンピュータにとっては歯がゆいものだと思う。
自我がないからそんな感情すらないだろうけど。

そう見ると人間が自分の長所を生かして
コンピュータをルールで縛り上げるっていうのは
ある意味自然の摂理であるとも思うのですが、
それを行使するということはつまり人間も
アンフェアという点では同罪だということだと思うのです。

個人的にはスポンサーではなく、
見ているリスナーにニコ割アンケートでも流して
多数決で決めればいいと思います。
実現は大変困難だと思いますが、
コンピュータの弱点をよく知る将棋関係者では
平等なルールは作れないと思うのです。

なにより電王戦で一番なにが大切かといえば
「できるだけ多くの人のファンが喜ぶかどうか」
っていうことですから。
スポンサーではなく、開発者ではなく、プロ棋士でもなく
ファンが本当は何を求めているのか。そこから
探ってみたほうがいいんじゃないでしょうか。

裁判の行方が気になるところですが 連載の方も楽しみにしてますよ!

人間の行動パターンというのは、だいたい同じなので、このような形で記録を残されることは、将来多くの人にとって役立つことだと思いました。米長先生の本と異なり、伊藤さんにはお金が入らないのに、感謝します。
 人間とコンピューターの対局条件については、現状では制約が厳しいですが、もっと対局数が増えれば妥協点が見つかると考えています。
 会社に所属をされていて、いろいろ大丈夫なのかなと思いました。度胸があると思います。

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