2023年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

tweet

  • tweets

« 練習環境の提供 | トップページ | もう何も恐くない »

居酒屋にて

2011/10/4に鷺宮の居酒屋で米長さんと話したことについて書きます。彼のコンピュータ将棋に対する考えをじっくり聞かせてもらいました。

とにかくこのとき彼が強調していたのは「(2010年10月の)清水-あから戦はひどかった」ということ。対局は負けるわ、収支は赤字だわ、連盟にとって得るものが何もなかった、というわけです。まあこのこと自体は新しい情報というわけでもなく、中央公論の記事でも「踏んだり蹴ったり」などと書いていました。ですが、直接話していて、改めてその思いの強さを感じていました。

この対戦は情報処理学会の50周年記念企画として行われ、主催が情報処理学会、会場も東大でした。連盟は、当日こそ人を出しましたが、運営は学会側が中心だったように思えます(傍から見ていると。私自身はあからには全く関わっていません)。ただ学会というところは、一般向けのイベントをやるのは得意ではありません。会場の用意や、マシンの準備はもちろんやりますが、特に一般向けに宣伝とかやるわけではない。連盟側は、たぶん学会がそういうところだとは知らなかったのでしょう。普段は新聞社とかマスコミとつきあってるわけですから、主催の学会側がそういう宣伝やらをやるものと思っていたのでしょうが、まるでやらない。イベントの盛り上がりも、一部のファンはともかく、一般的にはたとえば電王戦と比べるとかなり注目度は低かったと思います。

まあ学会というところはそういうところなので、学会側に何か非があるというわけではないと思います。あとついでに言っておくと、対局者も双方いい仕事をしたと私は思っています。清水さんはプレッシャーも大きかったであろう中で対局を受けたのは立派だったと思うし、あからチームも「とにかく勝つ」という一点において結果を出したわけですし。ですが、将棋連盟の会長というのはいってみれば経営者ですから、イベントをやってこれではやはり困るわけです。で米長さんとしては「学会とイベントをやるのはだめだなぁ」という結論になっていたようです。

このときの学会側で中心となって動いた人は、コンピュータ将棋協会(CSA)の理事でもあります。なので情報処理学会≒CSAと思ったようで、この後はことイベント運営に関するかぎりはCSAには声をかけないようになっていきます。別に関係が悪化したという意味ではなく、この後も連盟は対コンピュータ戦のルールに関するアドバイスやら立会人の依頼やらはCSAにしていましたが、イベント運営の協力相手としては適さない、という判断だったのでしょう。

そういうわけで、「興行として成功させたいんだよ」、と。それで今度は学会でなく、中央公論とドワンゴと組むことにしたようです。

一方私の方は、実はこの時話をする前からやはり同じことを考えていました。つまり「コンピュータが名人に勝つには、技術的な話もあるけど、興行として成功するような方向に持っていかないとだめだな/実現しないよな」と。この話もまた後でしますが、とにかくそういうわけで、この点については我々の意見は一致し、大いに共感していました。

あともう一点は、彼は自分が勝つことをまったく疑っていないようでした。もちろん私に面と向かってはっきりとそうは言いませんでしたが、言葉の端々にそれが感じられました。この日以降実際にボンクラーズと指すまで、勝てると信じていたようです。

この理由も断言はできませんが、「自宅の激指に勝てていた」からではないかな、というのが私の推測です。自宅にあったノートPCにK-Shogiをインストールしたのですが、これに激指が入っていました。バージョンまでは覚えてませんが。

第2回のときに三浦さんが「ノートPCでやるのと最新のデスクトップでやるのとで全然強さが違うので驚いた」のようなことを話しておられたと記憶してますが、どうもプロ棋士の人というのはあまりコンピュータ将棋のことを知らない人が多いようです。塚田さんも「ツツカナが入玉しなかったからPuella αもしないと思った」とか言ってるし。どうやら「コンピュータ将棋なんてどれも似たようなものでしょ」みたいに思ってる人が多いような気がします。いや中には詳しい人もいるんでしょうけど。ツツカナもPuella αも激指も一緒、ノートPCでも最新デスクトップでも大差ないだろ、という感じ。まあこの辺はコンピュータ将棋に詳しい人でないとなかなかわからないものなので致し方ないのですが、ともあれ米長さんの思い込みの原因はおそらくこうであったと推測されます。

もちろんこう思っていたのもこの日が最後だったでしょう。この後は実際に戦ってみて強さを実感したでしょうから。なんでも最初いきなり米長さんが10連敗した、とどっかから聞きました。この辺は米長さんHP「米長邦雄の家」でも多少書いていたはずなのですが、このサイト、今見えなくなっていますね。貴重な記録が消えてしまったなぁ、と残念です。

ちなみにツイッターの方は今も見えるようですが、これもいつ消えるかも… ネット上の情報はいつ消えるかわからないですね。最初に出した中央公論の記事も、あったことは記憶していたのですが、2010年の記事なので「今見えるかなぁ」と不安を感じながらググっていました。新聞記事などはちょっと古いとすぐ見えなくなりますので。この連載を書き出すにあたって、古いブログやらメールやらツイッターやらをいろいろほじくり返しています。自分の書いたブログやメールはいちおう全部保存しているつもりですが、関連記事とか全部DLしとくわけにもいかないし… 全ネットアーカイブ、みたいなものないですかね。

« 練習環境の提供 | トップページ | もう何も恐くない »

電王戦記録」カテゴリの記事

コメント

「米長邦雄の家」ですが、インターネットアーカイブで履歴がギリギリ見られるかもしれません。
テスト検索してみたところ多少残っています。
https://archive.org/

はじめまして。

あから戦よりも以前からコンピュータ将棋を観戦している者です。(コンピュータ将棋の大会ってお祭り感があって好きです。みんな楽しそうにやってるし)

今回の記事、大変興味深く読ませて頂きました。

私もプロ棋士の方はコンピュータ将棋に対して認識が甘いように思ってました。米長氏や塚田氏のコメントを聞くと、「えっ?そんな事も知らなかったの?」「設定の変え方誰か教えてあげなかったの?」などなど。

負けてすごく悔しそうにしてるのに、では事前に十分に対策したのか? 疑問です。
特にコンピュータ世代よりも上の人に感じました。
(反対にコール君や船江君は事前にすごく努力したのをコメントから感じ取れました)

(悪い事ばかり書いてますが、棋士も個性があって好きです。)

第2回まではガチ勝負としてすごく楽しめました。
でも、第3回は興行要素が強くてガチとしては楽しめそうになさそうです。

第2回までは「いつかトッププロと対局!」と強く思っていましたが、第3回の開催要領を見てこれは当分は無理そうだなと思いました。

仰るとおり、興行的に成功していかないとダメそうですね。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 居酒屋にて:

« 練習環境の提供 | トップページ | もう何も恐くない »