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企画書前半 ~ 名人超えのアクションプラン

企画書を書き、2011/7/25にH取締役とGさんへ送りました。当時私の考えていたこと が比較的よくまとまっているし、またそれほどコンピュータ将棋を知らない人向けに書いているため、ブログ読者の方にも背景がわかりやすいと思うので、(ほぼ)全文を載せます。社内事情の部分は割愛してますのでご了承ください。長いので、2つの記事に分けます。今回は前半分。付録2~4は次回掲載です。

--------------------------------------
将棋ソフト開発企画書(案) v0.1

            2011年7月25日
            伊藤英紀

目次

0. 目的
1. 基本方針
2. スケジュール
3. 開発体制
4. マシン使用計画
5. 法的権利面

付録1 各種対局機会
付録2 現状強さ分析
付録3 強さ向上度予測
付録4 対プロ挑戦のビジネス側面

0. 目的

名人に勝てる将棋ソフトを作る。究極の目標としては、
このソフトで実際に名人との対局を実現して勝利し、
FJのソフト・ハード両面の技術力の宣伝とする。
つまり、「将棋版 Deep Blue」計画である。

1. 基本方針

伊藤が個人で開発したソフト「ボンクラーズ」をベースとする。
これを大規模クラスタ向けに改良する。計算機リソースはFJ研
が提供する。

2. スケジュール

2011/8   開発開始
2011/8-11 仕様検討
2011/12-2012/5 コーディング
2012/5-10 デバッグ・性能チューン

開発内容としては、現状のボンクラーズがせいぜい10ノード程度までの
並列化に特化しているのに対して、これを数十~百数十ノードにまで対応させる
ものである。これにより名人に匹敵する強さになると考えられる。
(付録2、3参照)

技術的な開発面とは別に、上記目標達成には「いかにして名人に
対局に応じてもらうか」が重要な問題となってくる。この点に
関しては正直現段階で明確なことはわからないしスケジュールも
立てようがないが、参考情報を付録4にまとめておく。

3. 開発体制

【一部削除】

4. マシン使用計画

 ・すぐにでも…現状ソフトで8core x 10ノード程度で走らせてどの程度
        強くなるかをみる。2週間程度、floodgateで。現状電力制限の
        ため、運用時間が22時~6時。floodgateはその時間になる。
        floodgateについては下記付録1参照。
        自己対戦は昼間でも可。8core 1台と対戦。こちらは1週間程度。
        最初若干の環境設定をした後は、開発作業はなく、走行させるだけ。

 ・2012年5月~10月頃…8core x 数十ノード程度のテスト走行。ノード数は
        FJ研で使用可能な台数に依存するが、20~50ノード程度を想定。
        開発/チューン作業をしながら進めていくため、ひんぱんに
        ログイン必要。平日夜 or 休日、自宅からリモートで
        入るケースが主だが、平日休み時間/定時後にもログインしたい
        ケースもあると思われる(ジョブの起動等)。マシン時間を使うの
        は平日夜 or 休日が主。ただしFJ研の運用時間/体制と応相談。

 ※2012年4月頃までは開発が中心になる。この間は、自宅のPCで1core x 16ノード
  構成ができるので、FJ研の計算リソースをひんぱんに使う必要はない

5. 法的権利面

【一部削除】

付録1 各種対局/棋力アピール機会

名人への挑戦機会を得るためには、何らかの方法で棋力の高さを世間に
示す必要がある。コンピュータ将棋ソフトは当然ながら人間の将棋
大会等には通常参加できないため、ソフトが強さをアピールする機会は
おのずと限られてくる。以下、将棋ソフトに開かれた対局機会/棋力アピール
機会を列挙しておく。

・世界コンピュータ将棋選手権(WCSC)
 毎年5月開催。参加は(当然)コンピュータのみ。会場は最近毎年変わって
 いるが、今年は早大、昨年は電通大だった。
 大会ルールは http://www.computer-shogi.org/wcsc21/rule.html
 対局条件は25分切れ負け。ハードウェアの制限はなし。
 対局プロトコルはCSAプロトコル(http://www.computer-shogi.org/protocol/)

 なお上記のスケジュールでは来年(12年)の大会には間に合わないが、
 今年既に一度優勝しているため、改めて優勝することはさほど意義が
 なくなった面がある。下に挙げるfloodgate等によって「コンピュータ
 将棋の中で最強」をアピールできるなら、WCSCに参加する必要性は現状
 それほど大きくないと考えている。(というか、年1回だとアピール目的の
 「使い勝手」としてはあまりよくない)

・floodgate
 ネット上の対局サーバ。  http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/
 基本的にコンピュータ向けの対局場だが、人間の参加もOKで、
 参加するためのクライアントソフト等もある。
 対局条件は15分切れ負け。ハードウェアの制限はなし。

 東大(GPS将棋チーム)が運営している。ほぼ365日稼動。
 以前は24時間稼動だったが、東北大震災以降大学で電力制限がある
 そうで、現在は平日は22-6時のみの運用となっている。(休日は終日運営。)
 毎時0分と30分に、ログインしているソフトをみて対局組合せを決め、一斉に
 対局を開始する。休日ならば1日48局行うことになる。

 対局プロトコルはCSAプロトコルとほぼ同じで、ボンクラーズやbonanzaを
 はじめ多くのソフトが対応しており、よく参加・対局もしている。ソフト向け
 に、いったん起動すると自動で連続対局する環境が整っており、数日間連続
 対局させておくことも可能。

 第三者もネット上で観戦できるよう環境が整っている。また対戦結果や
 レーティングもwebで見えるようになっているため、WCSC開催時以外は
 事実上唯一のコンピュータ将棋の棋力比較の場となっている。

 最近2週間のレーティング:
  http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/LATEST/players-floodgate14.html
 ここで最上位になることによって「コンピュータ将棋の中で最強」をアピール
 することができる。ただし時期によって、他のソフトの参加度合いには
 むらがある。毎年5月のWCSC前は、WCSCの参加ソフトが大会と同じマシンで
 争うのが慣例で、この時期がいちばんにぎわう。また参加はハンドル名なので、
 わかりやすい名をつけたりブログ等でハンドルを名乗らないかぎり、ソフトの
 正体がわからないこともある。

 なおfloodgateで使用しているサーバソフトウェアは shogi-server という名で、
 sourceforgeで公開されている。これを使ってfloodgateと同様のサーバを自前で
 立ち上げることも可能。人間がいつでもボンクラーズに挑戦できる機会を用意
 することができるわけで、プロが挑戦してくるかもしれない。(今のfloodgate
 は、組合せはサーバがある程度のランダム性を持って決めるため、指したい
 相手と必ず指すことはできない。これが人間の側からするとfloodgateを
 使いづらいものにしている。)

・将棋倶楽部24
 これもネット上の対局サーバ。 http://www.shogidojo.com/
 対局条件は、何種類かあるが、持ち時間0~30分。どれも秒読み(30~60秒)あり。

 こちらは人間向け。ただしコンピュータ将棋開発者は申請すればソフトで参加・
 対局することも可能。
 ※開発者でない人間が助言を得る目的でソフトを併用して対局することは
  俗に「ソフト指し」と呼ばれて禁止されている。そのため、開発者でない人間が
  申請せずにソフトで指すのは大顰蹙を買うので注意。

 ここもレーティング表が公開されるので、棋力のアピールが可能。
 参加はハンドル名を使うため誰が参加しているのかはわからないが、最上位層
 はプロであるというのは常識となっている。

 人間がブラウザ上で指すのが基本。ソフトが自動・連続対局する環境は現状
 ないはず。webプログラミング等を駆使すればできるのかどうかは
 私(伊藤)はその方面の知識があまりないのでちょっとわからないが、
 詳しい人がやればできそうな気もする?そういう環境があるなら
 ぜひ連続対局してみたいし、詳しい人が作ってくれるとありがたいと
 考えている。

・twitter利用
 対局以外にも、twitterを利用したアピール方法も登場してきた。
 最近、twitterの将棋botが話題になっている。これは、人間のプロのタイトル戦
 等のときに、対局進行に合わせて各局面でソフトが思考し、ソフトが考える
 最善手と読み筋をtwitterでつぶやくもの。GPS将棋のbotである gpsshogi が
 有名だが、つい最近 ponanza_shogi も登場した。
 プロが考えているのと同時に同じ局面を考えるので、プロとソフトの比較が
 しやすく、プロからもけっこう注目されている。現状、ソフトが明らかな悪手
 をつぶやくこともあるが、プロが思い浮かばなかった読み筋をソフトが指摘
 して驚かれたりすることもある。つぶやきでの悪手が減れば、プロからも
 棋力を認められることにつながる。
 ponanza_shogiは対局をつぶやくほかに、ユーザが任意の局面をつぶやくと
 その局面を解析して最善手と読み筋をつぶやき返すというサービスも行って
 いる。これも話題作りとしては面白い方向と思われる。

(つづく)

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コメント

2時間待ちの苦行、お疲れ様でした。

毎年の恒例行事ですのでどうしても「ほとんど見ていない」状態になるのでしょうね。


ところで「ボンクラーズを数十~百数十ノードにまで対応」させたのと「670台連結のGPS」とではどちらが強いのでしょうか?

あるいは「ボンクラーズの並列化」と「GPSのクラスター」は何がどう違うのか、少々説明していただけると助かります。

いかにして名人に対戦してもらうか。
北風と太陽みたいなこと大事ですよね。


samuraiさん
ボンクラーズ/Puella αの並列化については、このブログの左上の「資料館」にある「クラスタ並列解説記事」で解説しているのでご参照ください。GPSのクラスタ方式については私もざっとしか知らないので解説するのは控えますが、お互いどちらがどちらを参照したわけでもなく独自に開発しているので、まったく違うと言っていいと思います。どちらが強いか?は…こちらの数十ノードが実現してないのでたらればになってしまいますね。

ご教授、ありがとうございます。

ようやくやねさんがいっていた「投機的実行」の意味がわかりました。

やっぱり「リスクを取らないとリターンはない」とそういうことですね。

付録2,3早く読みたいです。
この時点で伊藤さんがどの様に考えておられたのか。
Com将棋の到達点(対人での強さ)を考えるのはそんなに
簡単で無い様に思うんです(私あほ?)。


全然関係ない話なんですが、
ボンクラーズは24で自動操縦されていたと思うのですけど、
将棋の思考エンジンが24に参加できるプログラム(?)を一般公開される予定はないのでしょうか?

私自身は将棋プログラムとは全く関係ないのですが、
もし伊藤先生が公開されたら面白そうだと思っています。

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