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計算機資源獲得作戦

電王戦0.1の話が一段落したところで、これからしばらくは、F社が協力することになった経緯について書いていきます。F社の協力によって、Puella αの開発、第1回電王戦、ひいてはコンピュータ将棋全体にとっていくつかの重要な進展が可能となっており、電王戦の記録としてはこの点を除いて語るわけに はいきません。

この件について書き出す前に、まずF社による支援形態について簡単に説明しておきます。F社との協力がはじまったのは11年8月ですが、そのときから協力形態として「伊藤の個人としての活動を、会社が(外から)バックアップする」ものだ、ということを取り決めていました。F社側の人によると、「F社は某プロゴルファーをスポンサーとして支援してるけど、あんな感じ」と言ってました。つまり、将棋ソフト開発は、私にとって「会社の業務」ではなく、個人としての活動でした。そのため、社員としての守秘義務は、将棋ソフトに関するかぎり適用されません。

9月にK常務から(第1回)電王戦の話が来ても、この点は変わっていません。ボンクラーズは私が個人で開発したソフトなので、それを使ったイベントをF社が前面に出て主体となるのはおかしい、という判断です。F社はコンプライアンス的な面にはかなり厳格な会社で、少しでも疑惑を招きそうなことはしない、という傾向が非常に強いです。

その後、F社研究所が将棋ソフトに研究として興味を示し、研究テーマとしてやりたいということになり、11年12月から私は事業部から研究所に異動して、業務として将棋ソフト(ボンクラーズ後継=Puella α)開発を始めました。この間の開発については、当然守秘義務が発生します。ところが12年2月末に研究所の方針が変わって、やっぱり研究所としては将棋はやらない、ということになりました。社内事情のため内容は書けませんが、原因は私の側でなく全く研究所側の事情による方針変更だったので、その際の交渉で「12月から2月の間の開発成果はすべて伊藤の個人の帰属とする。F社は将棋ソフトに関する全ての権利を放棄する」ということを確約してもらいました。(会社の業務として開発していましたが、Puella αのコードを書いたのは私一人で、他のF社員は関わっていません。)

そういうわけで、将棋ソフトに関するかぎり、基本的に私に守秘義務はなく、自由に書ける立場にあります。ただそうはいっても、「個人としての私が、外部スポンサーとしてのF社とやりとりする」中で、どうしてもこちらが社員であるということを前提に、社内の話がいろいろ交じってきます。そのため、たとえばメール等を引用する際には、社内事情に触れている部分を伏せる等が必要になる場合があります。その点だけはあらかじめご了承ください。この連載の目的は「電王戦の記録」であり、そのような社内事情が電王戦にとって重要な意味を持つ場面は特になく、これによって何か話が見えなくなるようなことはないはずですので、その点はご安心ください。

さて、前置きはこのくらいにして、話は少しさかのぼって、2011年5月。この時までは会社は全く関係なく、純粋に個人の趣味としてコンピュータ将棋の開発をしていました。コンピュータ将棋をやっていることすら周囲には話していませんでした。5月にコンピュータ将棋選手権で優勝したわけですが、F社は以前から選手権を後援しており、毎年優勝の副賞にノートPCを出しています。表彰式にはその贈呈役にF社の人が来るのですが、大会終了後の懇親会でこの人と話していて、「そうそう、社内報に載せないとね!」てなことを言われまして、その人が写真やら情報やらを会社の広報部に渡したりしまして、5/20に社内報に載ります。これで一気に社内の周りの人に知れ渡りました。社内報には英語版記事)、中国語版記事) もありまして、海外販社から日本に出張してきた知り合い(外人)にいきなり"Hey, Chess Champion!"などとどつかれたりもしました。

昔の同僚とかからもいろいろメールをいただいたりしました。そんなメールの中のひとつに、研究所にいたGさんからのものがありました。Gさんは、私が入社したときに隣の部署で、また米国に出向していた時期にも一時同じ出向先にいたりして、けっこうつきあいがあった人です。で彼が、研究所内で定期的にいろいろな技術トピックの講演を企画してるんだけど、将棋の話をしてみないか、という依頼が来ました。5/23のことです。

一方私の方はというと、選手権優勝の後、次何をすべきか?を考えていました。この頃はソフトの実力はプロ棋士の下位~中位程度、棋士レーティングでいうと1500程度には達していると考えていたので(実際はもっと高かったのですが、この頃はそう考えていた)、次の目標は当然「名人に勝つ」ことです。ただ、羽生さんは棋士レーティング1900超で、レーティングで400以上上げる必要があると思っていました。

今までの実績として、コンピュータ将棋は毎年レーティングが100-150程度上昇してきています。そのペースで行くと、羽生さんに追いつくまで3、4年かかることになります。で、私はこれをもっと早くできないかと考えていて、そのためにいちばん簡単かつ確実なのは大規模クラスタだろう、と考えていました。このアイデア自体はFPGA将棋を作っていた2008年から持っていて、このブログ左側の「資料館」にもある、2008年11月のこのプレゼン資料の17ページあたりからそのことが書いてあります。

レーティングを400上げるには200台弱のマシンが必要と試算していて、それだけのマシンをどうやれば使えるだろうか、と考えていました。今ならばクラウドという手もあるでしょうが、当時はCPUやネットワーク性能の面で、クラウドでは最高性能は期待できませんでした。

F社に支援を頼むという選択肢は当初は頭に浮かびませんでした。F社ならば台数はそのくらいのマシンは持っているでしょうが、「将棋なんて遊びなんだから、そんなこと会社でできるわけないだろ」と言われるだろうと思っていたからです。それで、じゃあどうしようかな、どっかの大学の研究生にでもなったらどうだろう、なんてことを考えていました。

この「将棋なんて遊びだろ」という反応は、将棋ソフト開発者ならけっこう経験ある人が多いのではないかと思います。開発者ではないですが、コンピュータ将棋評論家(?)として有名な松原仁さんは、たしか大学院のときに教授に「コンピュータ将棋の研究をやりたい」と言ったら「そんなことしたら破門だ」と言われた、みたいな逸話を聞いた覚えがあります。まあ、世の中そういう「遊び」に理解のある人もいれば、ない人もいるのですが、理解ある人はあまり多くはないです。

そんなところへGさんからの話が来まして、「あ、研究所で将棋の話なんてしていいんだ」と思いまして、それじゃあこの講演依頼を受けるついでに、Gさん経由で研究所のマシン使わせてもらえないか、だめもとで交渉してみようか、と思いたちました。もちろん友人からの依頼だからやってあげようかというのもありましたが、まあギブアンドテイクということで。で、5月末に依頼があって、その後内容の打合せをして、資料を作って、7/8に研究所で社内向けに講演しました。

FPGAをやってたときにも2回ほど将棋関係で講演・発表したことがありましたが、ボンクラーズ/Puella αになってからはこのGさんの件が最初の講演で、その後電王戦の後またいくつか講演依頼が舞い込み、計10回くらいやったでしょうか。東大、筑波大、IBM研究所などで話しています。

7/8の講演の後、関係者で昼をいっしょに食べたのですが、そのときにGさんと、あとHさんという研究所の取締役の人がいました。でHさんに、これこれこういうわけで、研究所のマシンを将棋用途に使わせてもらえないだろうか、とお願いしてみました。すると、「即答はできないけど、検討はしてみるから、とりあえずどんなことをやりたいのか、マシンが何台くらい、いつごろ必要、とかの情報を教えてくれないか」ということでした。それで、この日の後、こちらのやりたいことをH取締役向けに説明する資料を作っていました。

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コメント

社内報の伊藤さんの写真が、さわやかな開発者という感じでかっこよく写っていて良かったです。

このペースだと第3回電王戦で一番盛り上がっている時期とこの連載のクライマックスが重なりそうですね。もしかしてそれを狙ってますか?w 第5戦の後の最後の全体記者会見で記者から谷川会長にこのブログの暴露内容ついての質問があるかも。それはそれで面白い。

ふむふむ。

なるほど。

で、囲碁電王戦についてもコメントくださいな。

隙がない文章で面白いです

会社員伊藤さんの語りはまるで別人ですね。
緊張感、清潔感、謙虚さが自然と。
私も会社員ですが、会社っていいものなのかな
とか思ってしまう。

 えらそうに聞こえるかもしれませんが、いい内容で嬉しいです。

はやく続きが読みたいです。
無理をされない程度にお願いします。

いくつかコメントいただいてますが、私以外の第三者への言及のあるコメントで、当該第三者からクレームの来る可能性があると判断される場合は、(私自身としては問題ない内容と考えていても)コメントを承認/公開しないことがあります。ご了承ください。

質問ですが、コメントの掲載率って何割位なのでしょうか。
余程問題ない限り殆んど掲載されているのでしょうか。
それとも、全部だと多すぎ、はたまた何らかの基準などで
結構絞っておられるのでしょうか。

ふだんは特に問題ないかぎり大体載せています。数えてないですが、9割は超えてると思います。ただときどき炎上することがあり、そういうときはしぼることもあります。

PDF読んで 飛角香だけなんでID振ってんだろと思ったんだが
12(後ろから桂馬が襲ってくるのか☆?)の視野の外から飛んでくるからなのかだぜ☆
Hの形にされると異形で面白いぜ☆ そういう風に将棋を見たことは無かったぜ☆

40個の駒じゃなくて81個の升目が考えているというのも そんなんでできるのかと頭がひっくり返ったぜ☆

なるほど どう考えるかがプログラムだよな☆
この考え方のひっくり返りができると わたしも頭が良くなりそうだぜ☆


A級リーグ指し手1号の由来も分かって面白かったぜ☆
分からないところは読み飛ばしやすくて むずかしい話しが 読みやすい☆w

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