2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

tweet

  • tweets

« 第2回電王戦における対局ルール決定プロセス | トップページ | 和解への圧力 »

Money Changes Everything

今回は、開発者に対する報酬の話を書きます。

11年9月に第1回電王戦の話が初めて来たときは、米長会長も私も、開発者に対する報酬というのはまったく想定していませんで、第1回は開発者報酬はゼロでした。私の方は、もともとコンピュータ将棋というのはそれまではみんながアマチュアで趣味でやっていたものなので、これがお金に結びつくという発想がそもそもなかった。米長会長は、この時はまだ「プロの方がソフトよりずっと強い」と思っていたはずなので、「挑戦させてやる」くらいに思っていたかもしれません。これは別に批判してるのではなく、この時点としてはそう考えても無理はありません。

第1回の後、12年4月にニコニコ超会議の中でコンピュータ将棋・囲碁のイベントをやり、私はゲストとして呼ばれて対談します。その中で司会者の方から「次回の電王戦、対局料は欲しいと思いますか?」と聞かれました。私の答えは「今までずっと趣味でやってきていて、お金をもらわないとやらない、ということはない。ただ、コンピュータ将棋の開発はマシン代等けっこう費用がかかるものなので、対局料にせよどんな形にせよ、開発費用を援助していただけるならそれは非常にありがたい」という感じでした。この質問を聞いて私は「ああ、ドワンゴは将棋のビジネスを真剣に考えてるのかな、電王戦も、利益を開発者にも還元することを考えてくれてるのかな」と内心思っていました。

第1回(12年1月)の頃は、ドワンゴは将棋にまだそれほど注力してはいなかったと思います。今は三大コンテンツのひとつなどと言ってるようですが、当時はそうでもなかった。コンピュータ将棋選手権のニコ生中継をやりだしたのは、コンピュータ将棋協会のHPで見たところどうやら11年からのようです。第1回の主催は、ドワンゴ単独ではなく、中央公論と共催でした。推測ですが、当時(11年はじめ頃)米長会長は前年のあから-清水戦に続く対ソフト戦を企画していて、あちこちにスポンサーにならないか声をかけてまわった。その中で、中央公論とドワンゴが手を挙げた、ということではないでしょうか。つまり、この時点ではドワンゴは「声かけられたからちょっとやってみようか」程度で、たぶんそれほど本気ではなかった。それが、第1回のPVが30数万だか行く大人気となり、「これはコンテンツとしてビジネスになる!」と本腰を入れだした、ということだったと思います。第2回の時はTV CMを打ったりGPS 100万円イベントなどをやって事前に盛り上げていましたが、第1回のときはそういった事前イベントをドワンゴが企画することもなかったと記憶しています。プレマッチはやりましたが、あれは米長会長が希望したものですよね。

12年10月にドワンゴのEさんから第2回の記者発表会の話が来たとき、「ところで超会議のとき対局料のことを聞いてましたが、もしかして今回は対局料ってあったりするんですか?」と聞いてみました。すると10万とのこと。マシン代より少ないですが、こちらとしてはゼロよりははるかにありがたいです。というわけでこのときは非常に感謝していました。

ですが13年2月、GPS 100万円イベントが行われます。3人が勝ち、100万円を獲得していきました。これを見て私は考えを変えます。で、ドワンゴEさんにメールを書きます。こんな感じ:
「開発者報酬が10万で、アマチュアに賞金100万出すというのはおかしいのではないでしょうか。アマチュアに100万出すなら、開発者報酬も100万円に増額してもいいですよね」

もちろん、本気で増額を要求しているのではありません。既に10万で出場を了承しているのですから、ドワンゴ側がNOと言えばこちらとしてはそれ以上強くは言えません。ですが、開発者が10万でアマチュアが100万というのは明らかにおかしいと思ったので、そういう時はダメ元でもとにかく一言言う、言って問題を気づかせる、というのが私のポリシーです。

「嫌儲」という言葉があります。自分たちは元々趣味でやっているので、金儲けをしようとしてやってるわけではない。だから無報酬でも構わない。だが、自分たちのやってることに誰かが便乗してきて金を稼いでいくのは許し難い。このときの私のスタンスはまさにこれでした。他人が稼ぐこと自体を否定しようとは思いません。ただ他人の成果を元に稼ぐならば、その人たちにも然るべき利益を還元するのは当然でしょう。

第1回の時のドワンゴは、それほど儲けようという感じでもなく、私も特に嫌儲的な考えは頭に浮かびませんでした。しかし第2回では、GPS100万円やTV CMをはじめ、明らかに目玉コンテンツとして、ビジネス的に盛り上げていこうと狙っていました。このような状況で、イベントの一方の主役である開発者には実費にも満たない額しか還元しないというのは、明らかに筋が通らないと思いました。

ちなみにドワンゴって電王戦でどのくらい儲かるの?ですが、私も正確にはわかりません。ただ「ニコ動 広告料」とかでちょっとググったところ、こんなページが見つかりました。

ニコニコ動画 400万円出せば公式生放送ができる件

ちょっと古いページですが。アドテク(ネット広告関連技術)の世界は最近ものすごく進歩してるらしいので、今はもっときめ細かくなってるのだと思いますが、まあいずれにせよ、開発者に総額500万払っても余裕で元が取れそうなことは想像がつくと思います。(もちろん、そうでないならば当然500万も出さないわけですが)

なおこのときEさんから聞いた話では、ドワンゴはソフト開発者への報酬額を決めるのは、棋士への報酬と同様、連盟に任せていたらしいです。連盟にまとめた額を払って、その中から開発者への報酬も出してください、額はお任せします、という感じだったらしい。これを聞いた時は私も思わず頭を抱えましたが、気を取り直して、「いやEさん、それはおかしいですよ」と反論します。

プロ棋士は将棋連盟に所属しており、連盟から給料やタイトル戦賞金などをもらいます。電王戦もその形になるのは自然でしょう。しかし開発者は連盟に属しているわけではありません。連盟に分配を任せたら、開発者への報酬が不当に少なくなるのは明らかです。その点はEさんに説明しました。まあドワンゴ側としては、このときはたしかタイトル戦の中継も始めていたはずなので、開発者への報酬を払うのもタイトル戦で棋士へ払うのと同じようにすればいいんだろう、と軽く考えていたのかもしれません。そう想像はつくのですが、ただ開発者としてはそれは全く受け入れられないのです。

まあそういう感じでいろいろやりとりしまして、最終的にEさんから「今回は既に稟議も通しているため、額を変更することはできません。ですが今後に関しては、開発者への還元を考慮していきます」という返事で、私の方も「そうおっしゃるなら仕方ありません。ただ今回こうして問題提起はさせていただいたので、今後改善されていくことを期待しています」という感じで、やりとりは終了しました。

第2回(13年4月)の報酬は結局10万のままでしたが、その後の13年8月のタッグマッチからはけっこうな額の出演料が出るようになり、第3回以降は総額500万、ということになりました。第3回以降は私は出てませんので自分は恩恵には浴してませんが、開発者仲間がメリットを享受しているし、開発者のステータスもこれでかなり上がったと思うので、あそこで声を上げて良かった、と思っています。

ただ前回記事に書いたように、報酬が上がったのはいいのですが、そのことが開発者のルール策定プロセスからの排除に結果的につながった面は多少あります。そういう意味で長短あったかもしれません。まあ開発者にとってどちらがいいかと言えば、お金もらえる方がいいような気はしますが。第三回以降は既に真剣勝負ではなかったですし、勝敗よりも実利かな、と。いや当事者じゃないんで単なる推測ですが。

「ドワンゴという会社は、時々ミスも犯すが、間違いに気づいて軌道修正するのも速い」と私は思っていますし、このブログやツイッターでも何度か書いたと思いますが、この件でもそういう特徴が現れていると思います。GPS 100万イベントを企画したとき、おそらく開発者からこんなクレームが出るとは想定していなかったでしょう。ですが、全部見通せていなくても、とりあえず突っ走ってイベントをやってしまう。それでクレームが来るなり問題が出るなりしたら、そこで考える。それで間違いに気づけば、迅速にとは行かなくとも、それなりに対応する。こういう柔軟性は良い点だと思います。

この辺たぶん企業文化によってかなり違っていて、例をあげるのも何ですが私のいる会社だと、いわゆる大企業ですんで、良く言えば慎重で思慮深い、悪く言えば動きが鈍い。どちらがいいというわけではなく、考え方の違いとしか言えないのですが、大企業にいるとまあ正直イラつくこともけっこうあるので、こういうフットワークの軽さはちょっと羨ましくも思えます。

前回の記事に、「いちいちクレームあげてると嫌われますよ」というコメントがありました。まあ特に日本人だと、実際のところそう考える人は多いかもしれません。ですがこれ、残念、というより、もったいないなぁと私は思ってしまいます。筋の通ったクレームを出すことには実は測り知れないメリットがあるからです。それは「相手の真の姿を知ることができる」という点です。

相手の言うことに従っている間は、その相手はよっぽどのことがないかぎり怒り出したりしません。そうしている間は、相手は猫をかぶっていられるため、本当はどういう性格なのかわかりません。ですが、筋の通った、しかし相手にとっては不都合なクレームを突きつけたとき、その相手の本性が現れます。「もう決まってるんだ」などと言い出して逆ギレして嫌がらせしてくる団体もあれば、ごにょごにょ言って退散してしまう会社もある。かと思うと、言われたことをきちんと検討して対処する会社もある。そうして相手の本性を見極めたところで、つきあう価値のある相手だけを選ぶことができます。逆ギレするような相手とは、もうその後は関わらない方がよい、という判断がつきます。そうやってつきあう相手を正しく取捨選択することができれば、そのクレームの1回だけは多少手間がかかっても、その後の人生がずっと楽になります。ですので皆さんも、何か筋の通ったクレームがある場合は、争いを恐れず言ってみることをお勧めします。それでもし相手があなたを嫌うようなら、そういう性悪な相手が自らあなたから遠ざかってくれて、むしろ万々歳です。

報酬の話は以上なんですが、書いてて思い出したので、今回の本筋とはやや離れますがもう1点。13年8月のタッグマッチの出演料が、具体的な額は伏せますけれども、話はドワンゴの方から来ていまして、Eさんから「税抜X万」と連絡を受けていました。ところがタッグマッチの後、なかなか支払いがなされませんで、10月にEさんから「支払いは連盟からします」とのこと。でしばらくして連盟から連絡が「タッグマッチ出演料として*円お支払いします」と来たのですが、その金額が、当初Eさんから聞いていたのの5分の1でした。ん??と思いEさんに「税抜X万円でしたよね。連盟からX/5万って言ってきてるんですけど。連盟に確認してもらえませんか」と言うと、「それはおかしいですね。連盟に言っておきます。」とのこと。X万を既にドワンゴから連盟に振り込んでいるそうです。ひとまず安心したのですが、次の連盟からのメールは「金額を間違えてすみません。税込X万円お支払いします」と来てまた頭が痛くなりました。「税抜のはずなんですけど。もう一度ドワンゴに確認してください」と言い、Eさんにも念のため連絡。その次にやっと「失礼しました。税抜X万でした」と来て、正しく振り込みがなされました。

13年10月は裁判のやりとりを既にしていました。連盟の職員さんは知らなかったかもしれませんが、理事会は内舘記事の件で訴えられそうなことを知っていました。金額の間違い方があまりにも不自然なので、これ、連盟が私への嫌がらせ・仕返しでやってる(理事が少ない金額を職員に伝えた)なんてことは、いや、まさかないでしょうねぇ… 裁判第2回の準備書面では私のことを「金銭の支払いに拘泥」「金銭的解決に強い執着」「金銭の支払いに強いこだわり」などと繰り返し繰り返し書いてましたが、支払うべき金を支払おうとしないのはさてどっちなんだろう…どんだけせこいんだ、この団体。

2回ほど話がそれましたが、次回からまた裁判の話に戻ります。

« 第2回電王戦における対局ルール決定プロセス | トップページ | 和解への圧力 »

電王戦記録」カテゴリの記事

コメント

>筋の通ったクレームを出すことには実は測り知れないメリットがあるからです。それは「相手の真の姿を知ることができる」という点です。

コンピュータ将棋開発者は、強心臓で鋼のメンタルを持つ人が多いなと感心していましたが、そのような考え方もあるのですね。
参考になりました。(参考になるとは言ってない)

お金に執着しても大丈夫ですから
連盟に嫌われても大丈夫ですから

真実かはさておき、この記事よんだらひどい団体だなと感じざるをえません。自分のことは棚においてをこの人は金に汚いんだと裁判所に言いいつけるなんて。小学生でも理解できてしまうルールに大人が夢中になって宇宙だの神様だの名人だの叫んでることのバカさに私などはきづきますけど、世間はだまされるんです。そこんとこをあばかれるのが怖いのでしょう。彼らはそれに触れないでくれるひとたちで囲まれていたいんです。

嫌がらせはさておき、横領は駄目だろう。
というか、さすがに嘘だろうと思わずにはいられない。

今度、将棋連盟の理事選が行われますが、あの組織の執行部の力関係がよくわからないんですよね。
職員の方が実質的に実務を仕切っているのか、声の大きな棋士理事が力を持っているのか。
伊藤さんとトラブルになった時にちゃんと謝罪して穏便に済まそうと考えた役員はいなかったのか。

あと、橋本八段が理事に立候補するのが話題になっていますが、たとえ当選したとしてもハブられるような気がします

「真実かはさておき」、「さすがに嘘だろう」、等のコメントをいただいてますが、

最後の連盟の報酬支払いの件、さすがに皆さん信じられないんですかねw 確かにあまりにひどすぎるので信じられないかもしれませんが、本当です。メールの証拠も残ってますんで。

私は、連盟に批判的なこと書くときは嘘はつけないんですよ。このブログもツイッターも、連盟はウォッチしてます。名誉毀損にあたるようなことがあれば提訴してくる可能性は高いでしょう。その点はこちらも重々承知ですので、名誉毀損にはならないようこちらも十分注意を払っています。そのためには、前に書いた「真実性、公益性、公共性」を守る必要があるのですよ。嘘の批判を書くと訴えられるので、真実しか書けないんです。

5分の1ってのが、いかにも姑息ですね
相手に指摘されたら、「開発者5人で分配するのだと勘違いしておりました」とでも言い訳できるとでも思ったのかな

TVでも文化人枠はギャラが安いと言いますし、裁判で「伊藤氏は売名行為で訴えた」と主張してきたのもそうだし、将棋連盟側には「こっちは有名人の集まりなんだ」という上から目線が透けて見えるのが残念ですね

将棋に限らず囲碁でも、組織運営に意見を出すとき、棋力の上の人(実績のある人)の意見だけがとりあげられる傾向にあります。
日本棋院の内情を知る立場ですが、囲碁でも似たようなもので、いくら正当な意見でも弱い棋士の意見は無視されます。

>2015年5月 3日 (日) 21時34分さん
将棋連盟の不手際なのは間違いないですが、
伊藤さんも横領とは断定していないので、横領と決めつけるのはどうかと思います。
ただの憶測から、出演料を将棋連盟が横領したかのような事実無根の噂が広がってしまう危険性があります。
あくまで憶測である場合は、横領、というような強い言葉を使うべきではないと思います。ただでさえ、記事では主体が将棋連盟と名指しされているのですから。

すごいブログだ!
もっと早く書いてください!
メガネが割れてしまいそうです

>2015年5月 5日 (火) 07時16分
まともに読めば断定していないのは自明だし、
そんな迂闊な奴にまで配慮する必要は無いと思うが、そこまで言うなら
「業務上過失横領は駄目だろう。下手すりゃ本当に横領かもしれないし。」
とでも訂正しておこう。

おっおっ☆ww!
第2回トナメの賞金額には そういう経緯があったのかなんだぜ☆wwww

ありがたく獲りにいかねばなるまい(^▽^)☆wwww

伊藤様

第1回電王戦の主催者ですが、文春ではなく中央公論(中公)です。
将来に対する記録という意味もある文章ですので、ご修正されることを希望いたします。

宮嶋様
大変失礼しました、ご指摘の通りです。記事修正しました。ご指摘ありがとうございました。私も、事実関係の記録はできるだけ正確にしておきたいと考えています。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/507007/59855594

この記事へのトラックバック一覧です: Money Changes Everything:

« 第2回電王戦における対局ルール決定プロセス | トップページ | 和解への圧力 »