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和解への圧力

裁判第3回期日以降は、それ以前の法廷とは異なり、準備手続室での打合せです。こじんまりした会議室みたいな部屋です。

第3回(14年5月)は、連盟が論点をはっきりさせて準備書面を書き直してくるという話だったのですが、直前になっても書面が来ません。通常は裁判期日の数日前、いくら遅くても前日までには書面が来るそうです。当日に書面を出されても、事前に読み込んでおかないと審理ができない、ということでしょう。弁護士さんに「もしむこうが期日前に書面出さなかったらどうなるんですか?延期になる?」と聞いてみましたが、「いや、延期になるってことはないはずです。ただ、出さないってことは普通ないんですが… まあ怒られるとは思いますけど」とのこと。結局書面は出ませんでした。で、期日当日は、裁判官が特に連盟側を注意するでもなく、全員に向かって「(特に連盟は論点をしぼったうえで、)三者とも改めて書面を出してください」となりました。私はもちろん、うちの弁護士さんも???となっていました。それ以上話すこともないので、10分もせずに終了です。

これ、何がどうなっていたのか、今でもわかりません。ただ、単に連盟が書面を期日までに出さなくて、それで裁判官が何も言わないというのも変なので、いったん出したのか。その内容がまだおかしかったので裁判官が注意する、というのを既に裏でやっていて、だから当日は何も言わなかったのか。

それで第4回に向けて、いちおうこちらも書面を作ります。と言っても基本は既に訴状に書いているので、第2回の被告書面を見ての反論を書いていきます。反論の内容としては、前回の記事に書いたように、被告書面の記述中、事実と違うところを逐一指摘していく感じ。主張自体は前回とあまり変わらないことを言ってるので割愛します。それと、新たに証拠として以下を提出しました。

・ニコ生感想戦の動画をDVDに焼いたもの
・棋戦の記事で、羽生さんや郷田さんらが「つまらない将棋」と感想で話している記事を3つほど
マイナビの電王戦本の、河口俊彦さんの観戦記のコピー(「あんな将棋は二度と見たくない」と書いている)

徳間書店の電王戦本の、木村一基さんのインタビュー(入玉将棋は詰む詰まないのスリルがないのでつまらない、と書いている)

感想戦については書起しを既に証拠として出していますが、一応動画も出しておく、という程度。あとは「つまらない将棋」が非礼でないこと、他のプロ棋士も普通に言っていること、の証拠です。これらの証拠を最初から出さなかったのはこちらの作戦で、これを最初から出してしまうと、被告側が勝てないと見て最初から低姿勢で謝罪のポーズを見せ、そのうえで反省しているところを示して賠償金の減額を訴える、という作戦で来るかもしれない、と予想していまして、実はこちらにとってはこれがいちばん嫌でした。この方が賠償金額が低くなる可能性が高いからです。そのため、最初は決定的な証拠は出さないでおき、被告側に「勝てるかも」と思わせ、「自分たちは悪くない、原告が非礼だった」という対決姿勢を取らせたうえで、証拠をつきつけてむこうの主張を論破しよう、という作戦でした。その方が被告に対する裁判官の心証が悪くなる。実際には、こちらが小細工せずともむこうは全面的に戦ってきたっぽいので、わざわざ小細工する必要はなかったようでしたが、ともあれ「被告に対決姿勢を取らせて、そこを叩く」という方針は狙い通り実現しました。

あと、第2回の記事中で「将棋世界の発行部数を確認する求釈明を出そうかと思ったがやめた」と書きましたが、すみません、これ記憶違いでした。このときの書面を見直したら、求釈明出してました。ただ、書面を議論せずにすぐ和解の話し合いに入ったため、求釈明については結局議論されず、それでこちらも出したこと自体忘れてしまっていました。まあ牽制のジャブ程度の意味合いなので裁判的には特に問題はないのですが、回答は聞きたかったですね。

ほどなく、連盟側書面、マイナビ側書面も来ました。マイナビの方もほとんど前回と変わらない主張のため割愛しますが、一点だけ重要な点が変わっていました。それは、前回は「感想戦で『つまらない将棋』と言ったことが対象」としていましたが、今度は「対局に関わる原告の言動全般」と対象を広げています。こうなった理由としてはおそらく、連盟側と話したうえで主張を合わせた、というのが一点。もう一点は、こちらが新証拠を出したのが先だったため、それを見て、「つまらない将棋」は非礼、という主張はやはり無理そうと悟った。それで、非礼とする対象を「つまらない将棋」だけでなく「言動全般」とすることで逃げようとした、のだと思われます。ただ、これは「論点をしぼれ」と言った裁判官の指示と逆方向なので、かえって心証悪くしたのではないかと思うのですが。

連盟の方は、前回よりは短い9ページでしたが、内容は前回とあまり変わりばえしないもので、相変わらずだらだら長く、まだ2chスレッドに言及している有様でした。これも冗長なので載せませんが、裁判官にはどう思われたでしょうか。また、こちらも「つまらない将棋」だけでなく原告(私)の言動全般がひどかった、という主張をより前面に押し出しています。ですが裁判官はもともと言動全般などという漠然としたものを議論の対象にするつもりはなく、だからこそ「論点をしぼれ」と言ったのですが、それにも関わらず被告側が論点を逆に広げる方向に行かざるを得なかったのは、明らかにこちらの「攻めさせておいてから叩く」方針が功を奏したと言えます。

第4回期日は7月はじめでしたが、最初に例によって「陳述しますね?」と確認した後は、書面の内容に言及することもなく、和解の話し合いに入りました。非礼に関する事実としては双方の主張が出揃ったし、第2回で連盟がずらずら書いていた交渉経緯については、そもそも本題と関係ないので検討の必要すらないと考えたのでしょう。

最初は被告と原告別々に、それぞれ裁判官と話します。裁判官は2人ですが、1人は若手で実質しゃべらないため、ベテランの方の1人が仕切ります。最初は被告(連盟、マイナビ)が裁判官と話す。その間、原告の私と弁護士さんは、廊下に並べてある椅子に座って待っています。

裁判10回のうち、第1,2,3,10回はたいして話すこともなくすぐ終わりましたが(第10回は合意事項の確認のみ)、4-9回は各1時間程度でした。一人の裁判官がいくつも担当しているので、ひとつの枠が1時間程度になってるようで、次の枠には別の案件が入っているため、まあ5分程度までは延長できるのですが、それ以上になりそうだと、話の途中でも次回期日だけ決めて今日のところは終了、となります。

被告側との話はだいぶ長く続き、たしか30分以上は待っていたと思います。それから被告側が出てきて、交替で我々が手続室に入ります。

まず裁判官からは、「被告側も『おわびはしたい』と言っているし…」などと話しだします。こっちは内心(おいおい、それを言うのかよ。こいつ、まさかむこうの口からでまかせを真に受けてるんじゃないだろうな…)と思いながら、とりあえず聞きます。「…今回の件は、『ゆうじょ』もありえるかと思うのですが…」専門用語でよく聞き取れませんで、たぶん「ゆうじょ」だったと思うのですが、意味を聞くと「許すこと」だそうで、要するに賠償金無しで謝罪だけで収めてはどうか、という提案でした。はァ?と思い、「賠償金無しで和解するつもりは全くありません。だったら和解協議などするだけ無駄なので判決にしましょう」と吐き捨てるように答えます。

第3回までは、話し合いらしい話し合いがなかったこともあり、私は裁判所ではほとんど発言してませんでした。こういうものなのかと思ってましたが、この第4回からはうって変わって丁々発止の議論が続き、かなりしゃべりまくることになります。私はこの手の議論は仕事柄もあってけっこう慣れていますが、慣れない人は大変かもしれません。そういう人は弁護士任せの方がいいかも。

すると裁判官は、まぁまぁ、という感じで、「そうは言うが、判決になっても、賠償金が認められるとは限りませんよ。仮に認められたとしても、***円なんていう金額には到底なりませんよ」と諭してきます。この***円は、訴状で要求した額よりだいぶ低い額です。

事前に弁護士さんと、ありそうなシナリオ展開について話していまして、裁判官としては和解の方が望ましいので和解を勧めてくる、というのは知っていました。また、賠償金の額はともかく、名誉毀損自体が認められないことはまずないだろうということも予想していました。そうすると、上記の裁判官の発言は、一見きついようではありますが、真意としては次のようなものであろうと推測がつきます:訴状に書いた賠償金額は、過去判例に照らして「可能性があると思われる最大限」に設定していました。それに対して、裁判官が「このケースならこのくらいが妥当だろう」と思う金額は、たぶん訴状の額よりはずっと低い。和解の額が不当に高いと被告が受け入れない可能性が高いので、和解を成立させたい裁判官としては、和解の原告側提示額を、彼が妥当と思う額まで落したい。裁判官から見ると、原告(私)がどういう人物かわからず、もしかすると「絶対1円たりとも妥協しないぞ!」のような原告も中にはいる。なので、多少脅しっぽい示唆も交えながら、原告から金額面で妥協を引き出したい。…とこういうことではないかな、と思われます。実際、この後の展開を見ると、この予想は正しかっただろうと思っています。

その後謝罪文についても議論します。謝罪掲載については被告も載せるつもりがあるようなので、文面の調整は必要にせよ、こちらは要求が通りそう。で、「金額を見直してもらえますか」という話になりました。

そうそう、あと、裁判官から「お金に困って、賠償金を取るために裁判をしている、ってことはないんですよね」と聞かれて脱力しましたw 連盟側は以前「伊藤は金に困って裁判で賠償金を取ろうとしている」との噂を流そうとしていましたが、裁判の場でも裁判官にそれを言ったようですw さすがに裁判官は信用してはいなかったようで、言われたので一応形式だけ確認、という感じのようでしたが。

メモもとらずにずっとしゃべっていたので、細かい内容まで正確に覚えていない面がありますが、この後もう一度被告と話すというので、また交替します。その間廊下で、弁護士さんと対応を話し合います。裁判官の言った「***円なんていう金額にはならない」というのが今回のクエストの鍵だろう、というのは意見が一致しまして、じゃあそれより若干下くらいの額にしよう、ということで、あっさり提示額を決めます。もともとこちらは儲けようとしてるわけではなく、被告に詫びさせて金銭的にも過ちを認めさせるというのが目的なので、赤字は困りますが、そうならないのであれば元の訴状の額にこだわるわけでもありません。この辺、即決で決められるのは、本人(私)が出席していることのメリットです。もし私がいなくて「持ち帰って検討してから後日回答」などとやっていたら、それだけでまた期日1回、1か月半伸びるところでした。

その後もう一度こちらが裁判官と話すターンになり、裁判官に「**円にしようと思います」と告げると、裁判官はうなずいて「わかりました。では、被告を呼んできますので、彼らにそう伝えてください」ということになりました。おそらく、彼の想定していた額とだいぶ近かったのでしょう。裁判官にしてみれば、どんな無理難題を言い出すかわからないと内心心配していた原告が、あっさり提示額を下げたので安心した、のかもしれません。

また全員揃ったところでうちの弁護士さんが「賠償金**円(下げた金額)、プラス謝罪掲載であれば、和解を検討します」と告げます。連盟とマイナビは弁護士しかいないので、その条件でOKかどうかを持って帰って検討することになります。第4回はここまで。

被告側の話し合いで何を話していたのかはこちらにはわかりません。ただ裁判官が和解を望むならば、我々の時とは逆に、被告側には「今回は名誉毀損は明らかだし、2chの証拠など話になりません。判決になれば謝罪掲載と賠償金支払いは当然あると思ってください。(だから和解した方がいいですよ)」みたいなことを言ってるんだろうな、と想像します。実際、第2回の被告側書面では全面対決の姿勢でしたが、この後の議論では謝罪と賠償はありきで、その具体的内容をどうするかが焦点でした。

ところでなぜ裁判官が和解を望むのか、ですが、一般には次のように言われているようです:裁判所としてはできるだけ短い時間で効率的に案件を「片付けて」いきたい。それが役所側としてはコストダウンになるし、個々の裁判官にとってはそうした方が勤務評定が上がる。判決となるとうかつなことは書けない(判例として後々まで残る)ので、過去の判例を慎重に調べたり等、手間と時間がかかる。和解ならば、実際は和解の内容はそこそこ裁判官から見て公正となるよう口出しはするものの、形式上は和解は当事者同士が行うものであり、裁判官はその内容に責任を持たなくてよい。そういう理由から、手間のかかる判決よりも和解でてっとり早く解決したがるのだ、ということのようです。

この辺の事情は、「絶望の裁判所」という本にある程度書かれています。また弁護士さんからも同様のことを聞きましたし、ググってもそういう話はたくさん出てきます。ただ「絶望の~」本では、「当事者が望まなくても和解をゴリ押ししようとする」などと書かれていますが、少なくとも私のケースではそんなことはなく、一応和解を勧めはしますが、どうしても納得できないなら判決にしますよ、という感じでした。まあ実際にこちらが強硬に判決を主張したりしたらどうなっていたのかはわかりませんが。

というわけで今回の教訓は、裁判官は和解したさにこちらを「脅す」こともあるので、脅しに惑わされず、主張すべきことは堂々と主張しましょう、ということです(泥舟風)。気弱な人ならば、裁判官から「賠償金無しでどうか」と言われると「じゃあそれでいいです」などと応じてしまう人もいるでしょう。しかしそれでは、あなたが本来持っている正当な権利を失いかねないし、また本来処罰されるべき被告が大した損害もなく逃げおおせてしまうことにもなります。ですから、正しいことは誰に何を言われようと恐れず堂々と主張しましょう。また、一見きついことを言われたように思えても、相手の立場に思いを巡らせ、その真意を推し測ることで、落とし所が見つかることもある、言葉の表面だけ見て慌てなくても済むかもしれない、ということです。

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コメント

ゆうじょ
宥恕 らしいですね。
漢字検定準一級の読みの問題であるらしいです。
意味は寛大な心で罪を許すこと。だそうで
ゆうじょで検索したらなんと一番上に出てきました。
2番目が遊女です。


《和解の額が不当に高いと原告が受け入れない可能性が高いので、》は《和解の額が不当に低いと原告が受け入れない可能性が高いので、》の間違いではないでしょうか?

>和解の額が不当に高いと原告が受け入れない

被告が、の間違いでした。ご指摘ありがとうございます。本文修正しました。

>漢字検定準一級の読みの問題であるらしいです。

情報ありがとうございます。全く知らない単語でした。しかしもう少しわかりやすい言葉使うようにした方がいいんじゃないでしょうか >裁判所

毎回大変興味深く読まさせていただいています。

>これらの証拠を最初から出さなかったのはこちらの作戦

私がある裁判で被告になったときも、決定的に勝てそうな証拠があって最初にそれを出して完膚なきまでに勝ってやろうとしたら、弁護士さんに「作戦としてその証拠はもう少し後で出しましょう」と言われたことを思い出しました。
伊藤さんの弁護士さんは、かなり優秀な方のように感じました。

5/14たまたまこのブログを見てこんなことがあったんだと驚きました。
当方50年以上の将棋ファンですが、理は伊藤さんにあるのだと確信します。ただ、連盟の方々は幼少期より蝶よ花よと育てられたゆえ世間常識がわからない。
もっと砕いて言えば双方の考え方の不一致を強く感じます。
彼らはいつも許されてきたのです。理不尽なことも通してもらったのです。ところが伊藤さんは理路整然と論破してしまった。利害関係もないので脅しも効かない。
そこがまた憎らしいというサイクルですね。強いもの実績のあるものが威張れる将棋界らしい考えを一般社会まで持ち込んでますね。
誰かが書いていましたが、謝罪するにしても時間がたてば世間の興味も薄れるという姑息な考えもそれらしいです。
悔しさに我慢できず、狂ったおばさんの言い分をそのまま機関紙に乗せてしまった情けなさも感じます。大山升田の時代から「気分が悪いから将棋は指さん。」と言えば皆が言う事を聞く世界の産物です。

失礼ながら伊藤さんにも理科系技術者にありがちな執拗で厳密な追求をして、連盟を追い込んでしまいました。彼らは将棋で生活しており、機械に負けられないという事情もあるのです。(伊藤さんが本業でないというならなおさらです。)

こんごは彼らの子供じみた考えを許し、度量の大きさを見せてやってください。これ以上やってしまうと逆に伊藤さんの狭量を感じてしまいそうです。もう彼らに反撃する力はありません。
これ以上は火の粉を振り払う程度にしてやってください。もとより伊藤さんはそのつもりなのであったのでしょうけれど。

以前こちらで書かせていただいた気がしますが、
羽生、郷田、木村が「つまらない将棋」と言ったことは事実なのでしょうけど、それは一流どころの発言ですよね。
将棋の腕前がどの程度のか知りませんが伊藤さんがそれをおっしゃるのは正直違和感があります。
さすがに将棋について全く知らない内舘氏が将棋を語るレベルとは違うでしょうけど。
内舘氏の「羽生さんなら言わない」というのは単に内舘氏の事実誤認なだけで、羽生さんが言ってるから伊藤さんが言ってもいいというのはちょっと違うと思いますが。しかもプロの目の前で。

巨額とはなんだったのか?ですね

おじさんなに寝ぼけたこと言ってんの。
公益社団法人という崇高なる看板を掲げて、
税金優遇を受けている団体にそんな甘いこと言うから
つけあがる。公益法人の定義を良く読むよろし。

意味が分からないことを言っている人がいますね。
この件で公益財団法人のどこが関係あるのですか?
公益財団法人であろうとなかろうと伊藤さんにした行動は常識として非難されるべきでしょう。
それは現実に裁判で実証された訳です。
だから、「それ以上仕掛けてこないならこれで許してやってください。」と言っているだけですよ。

寝ぼけているのはあなたでしょう。

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